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判例に見る職場のトラブル(7)秘密保持義務

判例のご紹介  秘密保持義務

(古河鉱業足尾製作所事件 東京高裁昭和55.2.18判決)

原告A氏、B氏は削岩機等を製造するY会社の工員で、共産党員です。

Y会社は経営再建のため3ヵ年計画を立案する過程で、3年後の業務状態を具体的数字で表した文書を作成し、極秘扱いとしていました。労組役員であったA氏は誤って余分に複写され保管されていたこの文書を借受け、B氏とともに写しを作成して、計画反対のための労組の態勢作りに利用するべく、Y会社の従業員ではない地区の委員会の幹部に漏洩しました。

Y会社はこの行為が就業規則の「業務上重要な秘密を社外に洩らし、又は洩らそうとしたとき」等に該当するとして、A氏、B氏を懲戒解雇としました。A氏、B氏が、自分達が活発な組合活動家であることを理由に事実の捏造が行われたもので、解雇は無効であると提訴しました。

一審では、A氏、B氏に重大な義務違反があったとして解雇を有効としました。A氏、B氏が控訴したのが本件ですが、控訴棄却となりました。

判決では、「労働者は労働契約にもとづく付随的義務として、信義則上、使用者の利益をことさら害するような行為を避けるべき責務を負う」として秘密をもらさないこともその義務に含まれるとしました。また、「管理職でないからといってこの義務を免れることはなく、自己の担当する職場外の事項であっても、これを秘密と知りながら洩らすことは許されない」として、秘密保持義務を全ての労働者に共通する義務としています。

 

現在、労働者が使用者の業務上の秘密を守るべきという直接の法律はありませんが、本件のように労働契約上の信義則で当然の義務とするのが、判例、学説の考え方です。

不正競争防止法では「営業秘密」という狭い範囲で定義していますが、通常秘密保持義務を言う時はもっと広く、使用者の利益を害するような秘密全般と解されています。

会社としては、社内的に重要な秘密を洩らした場合には懲戒解雇もあり得るということを、就業規則で明記し社員に周知することが重要です。

※なお、平成18年4月1日から施行されている「公益通報者保護法」では、いわゆる公益を守るための内部告発者についての解雇は無効です。いくら会社の秘密と言ってもそれが違法なことであるなら、「秘密保持」には当たりません。

法律学では「クリーンハンドの原則」というものがあります。「自ら法を侵している者は法の保護には値しない」ということです。会社は常に法令遵守する姿勢を貫いてこそ社員に対する懲戒ができるのです。

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