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労務管理の判例ご紹介

判例に見る職場のトラブル(5)私傷病による配置転換

判例のご紹介 私傷病による配置転換

(片山組事件 最高裁判決 平成10.4.9)

私傷病等で今までの業務は難しいが、他の業務ならできるという労働者を会社としてどう処遇するかということについて言及した判例です。

原告X氏は20年近く被告会社Yで建設工事現場の現場監督業務に従事していました。平成2年夏、X氏はバセドウ病との診断を受けますが、平成3年2月まで現場監督業務を続け、その後次の現場監督業務が生じるまでの一時的業務として、図面作成などの事務作業をしていました。

X氏は、平成3年8月から現場監督業務をするよう業務命令を受けますが、病気のため現場業務はできないこと、残業は1日1時間に限り可能、日曜日、祝日の勤務は不可能であることなどを申し出ます。会社の要請により診断書も提出しました。

会社は平成3年9月30日付けの指示書で10月1日から当分の間自宅療養するように命令します。X氏は主治医の診断書を添え事務作業はできると主張しましたが、会社は診断書に現場作業ができるとの記述がないとして、自宅療養命令を持続します。

その後、平成4年2月5日に現場監督業務に復帰するまでの期間中、会社はX氏を欠勤扱いとして無給とし、賞与も減額しました。X氏が欠勤扱い中の賃金と賞与の減額分を請求したのが、本事案です。

判決では、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置、異動の実情に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である」としてX氏の言い分を認めました。

今までの仕事ができなくても現実に他の仕事ができる可能性があり、本人も希望するのならそれをやってもらいなさいという判断です。

「職種や業務内容を特定せず労働契約締結」となっていますが、職種が特定されていた場合はどうでしょうか。

それまでの通常の業務ができなくなったトラック運転手について、「他の配置可能な業務が存在し、会社の経営上もその業務を担当させることにそれほど問題がないとき」は労務の提供を認めるとした判例があります。(カントラ事件 大阪高裁判決平成10.6.19)

 

以上のように今までの仕事ができなくなっても、他にできる仕事があり本人も希望するのなら、会社は可能な限りその仕事をさせなさいというのが判例の考え方です。

通常、私傷病で休業を余儀なくされた場合、就業規則で一定の休職期間があり、それを過ぎると期間満了により退職、もしくは、欠勤扱いとなり業務の遂行が不完全ということで解雇、または、期間満了前に本人が申し出て退職になるというのが普通だと思います。

労働者側としては、退職したくない場合はどのような業務ができるかということについて会社に説明し、可能なら業務を転換してもらうという選択があると思います。

これを経営者側、特に中小企業の経営者の視点で見てみましょう。だいたいいっぱいいっぱいの人数で業務をこなしているでしょうから、配置転換といっても難しいかもしれません。健康上問題のある社員を抱え込むほど余裕はないというのが本音でしょう。

雇用契約を結ぶ時に運転手等特殊な仕事はきちんと限定して明記することなどが必要です。労働基準法では休職期間について規定はありませんから、会社の実情にあった期間を就業規則で定めることも大切です。

また、そのような事態になった時には労働者と誠意を持って話し合うことが大事だと思います。会社の実情をよく理解してもらうということです。訴訟までいってしまうと、先の判例のように経営者側には不利ですから、そうならないように誠実に労働者と話し合う姿勢が大事だと思います。訴訟になった例は会社の一方的なやり方を労働者が納得せず、怒りを感じているような場合が多いです。

病気というのはなりたくてなるものではありません。また、誰でもなる可能性があります。一度大病すると様々なことを考えますから、多くの人は人間的に大きく成長します。

「病歴は学歴に勝る」とある著名な学者も語っています。

回復の見込みがある、又は、慢性化しても業務の内容によりできるものがあり、本人も希望している場合は、できることなら会社の人材として生かす方法を考えていただきたいと思います。じっくりと話し合えば会社も社員も納得する方策がきっと見つかると思います。

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