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労務管理の判例ご紹介

判例に見る職場のトラブル(3)解雇権の濫用

判例のご紹介   解雇権の濫用

(高知放送事件 最高裁判決 昭和52.1.31)

解雇の要件のひとつとして就業規則上にどのような時に解雇になるかという規定が必要です。この判例は、たとえ、規定があっても「社会通念上相当なものとして是認できなければ解雇権の濫用になる」とした点で、労働契約法第16条の条文(注1)につながるものです。注1  労働契約法第16条 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」     以上の条文は平成20年3月1日より施行の労働契約法第16条となりましたが、もとは労働基準法第18条の2でした。現在は労働基準法から削除され労働契約法に移行されました。

 

原告A氏はY放送会社のアナウンサーで、午前6時から始まる10分間のニュースの担当でしたが、2週間の間に2度も寝過ごして放送に穴をあけてしまいました。通常はアナウンサーとコンビを組むFAX担当記者が先に起きてアナウンサーを起こすことになっていたのですが、2度とも記者もいっしょに寝過ごしてしまったのです。

A氏は一度目は直ちに謝罪しましたが、二度目はA氏の事実誤認なども重なり、結果的に事実と異なる事後報告書を提出します。そこでY会社はA氏の行為が就業規則上の懲戒解雇事由に該当するが、将来を考慮して、普通解雇としました。

A氏は従業員としての地位確認(解雇は無効との主張)を求めて提訴し、一審、二審ともに勝訴しました。会社が上告しましたが、最高裁でも解雇は無効とされたものです。

判決では、A氏が責任感に欠け2度目にはすぐに非を認めなかった点などでA氏にも非があるとしました。しかし、A氏には悪意や故意があったわけではなく、FAX担当記者が起こさなかったということもあり、A氏だけを責めるのは(FAX担当記者は譴責処分のみ)酷である。

また、放送の空白時間はさほど長時間ではなく、二度目については、短期間内に2度の失態をして気後れしていたことを考えれば、A氏を強く責めることはできないとしました。会社側も万全を期すための措置をしているとはいえなかったとして、就業規則上の解雇事由にあたるとしても

「当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである」としました。

判決では、寝過ごしということが万が一起きたらどうするかというところで、会社も「危機管理」が甘かったということを指摘していますし、やはり、解雇まではやり過ぎだとの判断を示しました。

 

この判決に先立ち「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」(日本食塩製造事件、最高裁判決昭和50.4.25)という判例がありますが、この判例では、さらに就業規則上に普通解雇事由の存在が肯定されてもなお、社会的に相当と是認されなければ無効となるとした点が注目されるわけです。

解雇権は使用者側が持っているものですが、むやみに使われると労働者の生活が脅かされるわけですから、使用者に対して解雇するに足りる十分な理由を求めるというのが、判例での流れです。

個別労働紛争でも解雇についての事案が一番多いようですが、裁判までいけばよほどのしっかりした理由がないと使用者側には不利です。

就業規則を整備する、採用時に労働者がその会社にとって適任かよく見極める、労働環境を整備してミスが起きないようにするなどの労務管理に力を入れて自衛しましょう。

労働者としては、納得できない場合は泣き寝入りしないで最寄の労働基準監督署、社労士会の労働相談所などに相談しましょう。

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