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判例にみる職場のトラブル(6)転勤の拒否

判例のご紹介 転勤の拒否

(東亜ペイント事件 最高裁判決昭和61.7.14)

X氏は昭和40年の大学卒業と同時に全国15箇所に事務所、営業所のあるY会社に入社して希望した大阪事務所に勤務しました。その後昭和44年に子会社に出向、46年には神戸営業所に転勤を命じられ勤務を続けてきました。

昭和48年には広島営業所への転勤を内示されましたが、高齢の母(71歳)がいて、保母をしている妻も仕事を辞めるのは難しい、子供が幼少(2歳)など、家庭の事情により転居を伴う転勤には応じられないとして拒否しました。

会社は広島営業所には名古屋営業所の主任を充て、その後任として今度は名古屋営業所への転勤をX氏に内示しました。またまたX氏が拒否したところ会社は本人の同意なく転勤を発令しました。X氏が応じなかったため、会社は就業規則所定の懲戒事由に当たるとしてX氏を懲戒解雇としました。

X氏は配転命令が人事権の濫用であり、労働協約上の協議がなされていない、頻繁な配転が組合活動を理由とした差別だとして従業員の地位確認並びに賃金支払を求めて提訴しました。

一審、二審では、人事権濫用として請求を認めたのですが、最高裁は使用者側の裁量を認め高裁に差し戻すこととしました。「使用者の権利濫用は許されない」としましたが、それは

「転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは」権利濫用ではないと判示しています。

その後、差し戻し審では労働協約違反と不当労働行為の成否について審理されましたが、平成4年にY会社が懲戒解雇を撤回して賃金を保障し、配転について遺憾の意を表すとともに解決金を支払うことで和解しました。

 

この判例により、権利濫用の判断基準として①業務上の必要性があるか、②不当な動機・目的はないか③労働者の不利益が大きいかというようなことが挙げられるようになりました。

その後平成3年に育児介護休業法ができて、子の養育、家族の介護などが困難になる労働者について就業場所を配慮することが義務付けられました(平成13年改正 第26条)から、使用者の裁量権については前述の時代よりも一定の制限が加えられたと考えても良いのではないかと思います。

その他の判例では、実際に単身赴任についてそれを強いることが不利益を与えると認定した事例(朝日火災海上保険事件 最高裁判決平成5年2月12日)などもあります。

判例でも使用者の人事権として裁量を認めているわけですが、その根拠については以下の学説があります。

①包括的合意説 労働契約は配転を含めて包括的に使用者に権利を委ねるものであるので、個別の決定は権利の濫用にならなければ使用者が一方的に意思表示できる。

②労働契約説 配転命令は労働契約において合意された範囲内のみ効力を有する。範囲を超える場合は労働者の明示、ないし黙示の合意が必要である。

③特約説 特約がある場合のみ使用者が配転を命じることができる

通常①と②が有力です。①、②ともに就業規則等に規定があればあまり差がないわけですが、就業規則など社内的に規定がない場合、①説なら労働契約をした時点で包括的に使用者に権利が発生すると考えますから問題ないのですが、②説をとると、社内的な規定がなく労働者が合意しない場合、使用者側が権利の濫用ではないということを示さなければならないのです。

ですから、使用者側にすれば就業規則というのはとても重要な意味を持つわけです。配置転換等についての規定を就業規則の中できちんと明記しましょう。

「東亜ペイント事件」では一審、二審では転勤を命じられた社員Xについて、どうしてもXでなくてはいけないという理由もなく、Xが相当な犠牲を強いられることを認め、かつ前の転勤から短期間しかたっていないという事情を考慮して権利の濫用と判断されました。

労働組合活動に関連しての配転や(不当労働行為)、差別的取り扱いに当たるような配転は(均等法違反)それぞれの法律に照らして無効になると考えられています。

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