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労務管理の判例ご紹介

判例のご紹介 労働時間管理をしない会社

それでも午前2時以降は労働時間とは認めがたい

 いわゆる残業代未払事件では、タイムカードもなく、そもそも労働時間管理をすることに関心の低い会社が訴えられることがあります。 労働者側は証拠として自分のつけた記録を提出するわけですが、客観的証拠としてすべてが労働者側のいうとおり認められることはまずありません。 裁判所としてもいろいろと検証します。特に、手帳につけた記録などは主観的なものとされることが多いのですが、この事例(十象舎賃金請求事件東京地判平23.9.9)では、労働者側が出したパソコンのログイン記録について、会社側がきちんと反証できない部分は採用されています。手帳よりも客観性が高いと判断されたものだと思います。

 事件の概要をみてみましょう。

被告会社は各種書籍、雑誌の企画編集などを行う社員数約30名の編集プロダクションです。 所定労働時間は、10時30分から19時30分(1時間の休憩含む)でしたが、会社代表者は、締切までによい仕事をすれば勤務時間の使い方は自由でかまわないという考え方で、社員の労働時間管理については、全くといってよいほど関心がありませんでした。 平成19年7月に編集、制作、並びにライターの業務で正社員として入社した本件原告のAさんは、タイムカードや出勤簿、就業規則もないことに疑問をもち、平成20年1月から手帳に出退社時刻を記入するとともに、自動的に立ち上げ、終了の時刻が記録されるソフトにより、パソコンのログイン、ログアウト記録をつけるようにしました。 平成21年7月には、会社にタイムカードや就業規則の作成を求めましたが、会社代表者は全く聞き入れようとはしませんでした。 Aさんは、平成22年7月31日に退職して、その後在職中の時間外割増賃金等の請求を求めて提訴したのが本件です。
裁判所は、Aさんが示した記録がすべて労働時間となるかを検証していきます。 会社側に記録がないために、警備会社の記録やパソコンの記録をしたソフトに反証する余地があるかどうかを検証して、これらから、Aさんの記録に合理的な反証はできないとして、その記録にある時刻が出退社時刻と認めます。 次に、出退社時刻の間の時間がすべて労働時間であったかどうかを検証していきます。 これについては過去の最高裁判例から①労務の提供があったか ②労働契約上の義務があったか ③義務に伴う場所的、時間的拘束があったか を検証して、それらがそろえば、使用者の指揮命令下にあった即ち労働時間であるとしてさらなる検証をしていきます。 この会社は、労働時間の概念がほとんどなかったようで、裁判所は出された記録を

①午前6時から午前10時まで(始業時刻前の早出とでもいいましょうか) ②午後7時30分から午前0時まで(終業時刻以後の残業時間) ③午前0時から午後6時まで に分けて、

①、②については、会社も認識していた指揮命令下にある時間=労働時間として認めました。 ③について、①、②の時間帯に働くことが常態化していたため、その余波として2時間ぐらいはあっただろうと、午前2時までは労働時間と認めました。 しかし、午前2時以後については、 「一般的にみて使用者の具体的な指揮命令権が及びがたい時間である」「労務に専念しようにも労働密度(集中力)や創造性が著しく低下し、思うような成果を残すことが困難な時間帯でもある」として、会社が容認していたものとはできないと判断しています。

残業の指示があったなどの事情があれば別だが、そういう証拠がなければ労働時間とは評価できないとしています。 裁判というのは、とにかく証拠です。そのような時間帯は「許可、黙認のない持ち帰り残業に類する性質のものということができる」としています。 労働者側のいうことをすべて認めるのもどうかなという裁判所の配慮が働いたのかもしれません。 広告業界など、業界全体が労働時間にルーズな場合もあります。時間など気にしていたらいい仕事はできないというような考え方も幅をきかせている場合もあります。 しかし、ひとたび裁判になると、それに割く費用やエネルギーと時間は大変です。労働時間管理は使用者の義務です。やはり、きちんと行わなければなりません。

会社は、1.タイムカード 2.出勤簿 3.現認(現実に目で見る) 4.残業は届出制にして許可のないものは認めない などにより労働時間を管理しましょう。

 

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