判例のご紹介 仮眠時間は労働時間か?
(大星ビル管理事件東京地裁判決 平成5.6.17)
一般に労働時間とは使用者の「指揮命令下」にある時間と考えられてきました。しかし、作業の準備、後始末、社外の研修など本来の業務以外の活動について、労働時間性が問題とされるようになり、「指揮命令下」に加え、「業務性」についても「指揮監督」を補充する重要な基準となるという学説も登場しました。
本件は、単に指揮命令下にあるかのみでなく、仮眠時間中の拘束の度合いについて言及した判例です。
原告A氏らは、ビル管理会社Yの従業員です。毎月数回24時間連続業務に従事します。その間休憩時間が2時間、仮眠時間が連続して8時間与えられます。
仮眠時間中はビルの仮眠室に待機して、警報がなる等の場合は直ちに所定の作業を行うことになっていました。
Y社は仮眠時間を労働時間に含めず、24時間勤務の時は泊まり勤務手当てを支給するだけで、時間外手当、深夜就業手当てを原則として支給していませんでした。仮眠時間中に現実に業務を行った時のみ時間外手当と時間帯に応じて深夜就業手当てを支給していました。
A氏らは仮眠時間を全て労働時間とするべきであるとして、その間の賃金の支払を求めて提訴しました。
結果はA氏らの請求が認められました。
判旨では、「労働時間とは労働者が使用者の拘束下にある時間のうち休憩時間を除いた時間」であるとして、休憩時間とは、「現実に労働者が自由に利用できる時間」としました。
すなわち、「現実に労務を提供していなくても使用者の指揮管理下にある時間、たとえこれが就業規則等で休憩時間、または仮眠時間とされているものであっても、なお労働時間に当たり、賃金支給の対象となる」としました。
労働時間かどうかの判断について、「労働からの解放がどの程度保証されているか、場所的、時間的にどの程度開放されているか、といった点からも実質的に考察すべき」として、仮眠時間中の職務上の義務における程度の問題にも言及しています。「職務としての拘束性の程度」を判断基準としてあげているわけです。
この判決の特徴は場所的、時間的制約の程度で仮眠時間中の労働時間性を判断している点です。本件では、警報や電話に対する対応を職務として義務付けられているため、労働からの解放がないとして、労働時間であると認めましたが、逆に場所的、時間的制約が相当程度低いものであるなら、労働時間性が否定される可能性もあるということだと思います。
使用者の「指揮命令」に加えて「職務としての拘束性の程度」についても判断の基準を示した先例的な判例です。
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