判例のご紹介
職場内不倫による服務規律違反による解雇(繁機工設備事件旭川地裁判決 平成元年12.27)
服務規律違反については、懲戒解雇もあり得ると規定しているのが普通ですが、判例では、解雇についてはかなりの理由を要求しています。
就業規則に「職場の風紀・秩序を乱した」社員は解雇できるとの規定がある会社で、不倫恋愛が問題となり解雇された社員が、解雇を無効として、雇用契約上の地位にあることを仮に定める地位保全と賃金の仮払いを求める仮処分についての判例があります。
A子さんは10年間の結婚生活の後夫と協議離婚して一子を引き取ります。その後募集広告に応募してY会社に就職します。Y社は水道設備工事などを業とする正社員と季節雇用者を合わせても10名ほどの規模の会社です。
勤め始めて半年ほどして、A子さんは同社の妻子ある男性社員B男さんと交際するようになり、男女の深い仲へと発展します。
2人の関係は、社内で親しそうに話したりお弁当のおかずを交換したりしているところや、A子さんのアパート前にB男さんの車が停まっているところを目撃されて、やがて同僚の知るところとなります。
Y社の社長は従業員や取引先関係者からそれを伝え聞き、妻子のために交際をやめるようA子さんに忠告しますが、2人の交際はその後も続きます。交際してから1年後ぐらいに、Y社側はB男さんを通してA子さんに2ヶ月くらいをめどに会社をやめるように申し入れます。これを伝え聞いたA子さんは社長に会い説明を求めます。
社長は、2人の交際について社内外で非難があり、社内の風紀が乱され社員の意欲も低下し社長の体面も汚されたと説明します。A子さんはプライベートな問題だし、当事者間で話し合っている最中だとして納得しませんでした。
その後、Y社社長はA子さんが会社全体の風紀・秩序を乱し、企業の運営に支障をきたしたとして、解雇通知書をA子さんに手渡します。A子さんが解雇を無効として仮処分を申請したのが本件です。
結論としては会社側の負けです。
A子さんの行為がB男さんの「妻に対する不法行為であり、社会的に非難される余地がある」と認めましたが、Y社の就業規則にある「職場の風紀・秩序を乱した」ということに関して「疎明はない」(注1)として、解雇を無効として、通勤手当以外の基本給と住宅手当を支払うように命じました。
[注1.] 疎明とは、訴訟手続き上、裁判官が当事者の主張事実につき、一応確からしいという程度の心証を抱いた状態、又は裁判官にその程度の心証を得させるために当事者がする行為を言います。
この裁判では、A子さんとB男さんの交際が社内の風紀・秩序を乱し企業運営に具体的な影響を与えたという確たる心証がないので、就業規則上の解雇理由にはあたらないと、裁判官が判断したわけです。
従業員の私生活上の行為は本来は企業秩序とは無関係ですし、原則として懲戒の対象とはなりません。もちろん、刑事事件を起こすなど会社に不名誉な事態になったり、賭け事や借金など私生活の乱れにより仕事に支障をきたしたなどという場合は、会社に損害を与えているわけですから、懲戒の対象となる可能性が高くなります。
男女間のことについては、「不倫関係」であっても労働契約外の問題として、反社会的、反倫理的な行為ではあっても会社は関与できないというのが原則とされています。
社内の男女間のトラブルで解雇が有効となった判例もあります。
妻子あるバス運転手が未成年の女子車掌を妊娠させた例では「会社の従業員間の秩序を破ること著しきもの」として会社の「社会的地位、名誉、信用等を傷つけ」、会社に損害を与えたとして解雇はやむを得ないとしました。(長野電鉄事件長野地裁判決 昭和45.3.24)
その他には近隣の主婦と不倫関係に陥った機長が問題をこじらせ、機長としての適格性に欠けるとして解雇が有効にされた例、(日航機長解雇事件 東京地裁判決 昭和61.2.26)
妻子ある高校教師が教え子との交際の後、卒業後男女の仲になって懲戒免職処分が有効とされた例(池田高校事件 大阪地裁判決 平成2.8.10)などがあります。
やはり、ケースバイケースで個別の事情を加味して判断されるということだと思われます。A子さんとB男さんの場合は2人ともそれなりの大人であり、会社にどのような損害があったのか具体的なものがないというのが決め手になったということだと思います。
いずれにしても、解雇までいくのはやはり相当な理由がないとなかなか認められないということだけは確かだと思います。
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