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2014年10月24日

妊娠による降格の違法性の判断 最高裁が示しました。

「労働者の同意」と「特段の事情」の有無

10月23日、最高裁は、「妊娠により降格させられたのは均等法違反」との女性労働者の訴えを受けて、男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)にある妊娠による不利益取り扱いにあたるかどうかの判断基準を示しました。会社の人事の裁量として降格を認めていた高等裁判所に対し、審理が尽くされていないとして差し戻しとしました。訴えていたのは、理学療法士として病院に勤務していた女性で、妊娠したため軽易な業務への変更を申し出ましたが(労働基準法で認められている正当な権利)、業務が変更すると同時に「副主任」の役職を外され、役職手当月額9,500円も支給されなくなり、均等法にある妊娠による不利益取り扱いの禁止に違反しているとしたものです。

一審、二審では、企業側の人事の裁量権として認め、女性の訴えを退けていました。企業運営には適性な人事配置は不可欠であり、労働契約に付随する権利として認められています。裁判の場でも企業の強い権利として認められる傾向があります。今般、最高裁は、この事案の場合、①労働者の自由な意思に基づく同意がないこと、②降格する必要性があるという特段の事情について十分な審理がされていないとして、「自由意思に基づく労働者の同意」並びに「降格しなければならない特段の事情」がなければ、妊娠したことにより降格することは違法であるとの判断をくだしたものです。

この事案では、①について、企業側は「同意を得た」としていますが、最高裁では「上司が電話をかけてきて渋々認めざるを得なかった」という労働者側の言い分を重くみて、自由な意思に基づく同意ではないと判断したようです。降格に限らず、労働契約の内容を変更する場合には、労働者の同意が必要ということについて(労働契約法に規定があります。)、企業は留意するべきでしょう。この裁判でも、女性労働者は、自分には何の落ち度もなく法律で決められた軽易な業務への転換という正当な権利を行使しただけなのに、せっかく得た社内での役職を取り上げられ、手当もなくなり収入も減るということについて納得がいかなかったのでしょう。

不利益取り扱いとは

では、不利益取り扱いとはどのようなことを言うのでしょうか。

厚生労働省ではそれについて指針(平成18年10月11日 厚生労働省告示第614号 )があります。解雇、雇止め(有期契約で契約更新しないこと)降格、退職や正社員からパートタイマーになるなどの強要、派遣社員に対して役務の提供を拒むこと(他の派遣社員に換えることを要求するなど)などが挙げられています。法律で禁止されているにも関わらず、以上のようなことは日常的に行われていて、最近では「マタニティハラスメント」として社会的にも注目を集めるようになっています。今般の最高裁の判断がでたことにより、今後、マタニティハラスメントについて企業に対する風当たりは強くなるものと思われます。

社員の妊娠を祝福できる企業になりましょう!

この裁判を企業側から見てみると、軽易な業務に変わるということは、今までの「副主任」という立場に比べて責任も権限もないのだから、それに伴い役職を外して手当もなしとしないと、労働に見合った賃金とはならないと考えることも可能かもしれません。企業は、利益をあげなければなりませんから、仕事に見合った賃金を支払うことは大事です。しかし、「妊娠、おめでとう。身体を大切にね。今までより軽い業務ですが、役職も手当もそのままです。元気な赤ちゃんが産まれるといいね」という処遇をしたとしたら、労働者側は「いい会社だな。ここでこれからも頑張ろう」と思うのではないでしょうか。他の若い女性社員も会社のやり方を見ています。妊娠した社員をお荷物扱いすることなく、祝福して会社全体で赤ちゃん誕生を喜ぶような会社なら、定着率も上がるでしょう。

企業にとって人は財産です。様々な経験を積んだ様々な人材がいてこそ企業は強い組織となり成長できます。妊娠した女性社員をお荷物扱いせずに人材として活かしていくことができれば、長期的に見て利益を上げることにつながるものと思います。「やはり、妊娠するような女性社員は企業にとってリスクだな。」と考え、家事、育児に関係なく長時間働けるような労働者を重用するような経営者は、そのうち時代に取り残されることになるでしょう。

 

 

 

 

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