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判例に見る職場のトラブル(1)過重労働によるうつ病
判例のご紹介 過重労働によるうつ病
うつ病が労災になると認識されるようになったのは、「電通事件」(最高裁第二小法廷判決 平成12.3.24)に負うところが大きいと思います。事件をちょっと振り返ってみましょう。
Aさんは平成2年に電通(以下会社とする)に入社し、ラジオ局に配属され、ラジオ番組の広告主への営業が主な業務となりました。担当得意先は40社、コンサートなどイベントの企画立案、開催会場を回り、招待客の送り迎えからジュースの買出しなどの雑用まで全てこなしました。そのため、昼間の仕事が一段落する夜8時を過ぎてから企画の仕事に取り組みました。
さらに、毎朝机の雑巾がけをし、先輩たちが出社して来るまでの間に次々とかかってくる電話応対もこなしました。その結果、Aさんは入社してからの1年5ヶ月間、日曜日も必ず仕事をして、この間にとった有給休暇は半日だけでした。特に後半の8ヶ月は午前2時以降の退社が3日に一度、午前4時以降が6日に一度で、睡眠時間は30分から2時間30分でした。
Aさんは入社翌年の春ごろから真っ暗な部屋でぼんやりしたり、「人間としてもうだめかもしれない」と言い出し、うつ病の症状が現れ、同年の8月自宅で自殺しました。
その後Aさんの両親が会社に対して損害賠償を求めたのが本件です。
この裁判の特徴は、損害賠償責任の根拠として民法709条にある不法行為責任ではなく、民法715条にある使用者の責任(安全配慮義務)を根拠として賠償を求めたことです。一審では、Aさんの残業申告は平日平均2.41時間ですが、管理員の報告により休日も含めて約5日に2日の割合で午前2時以降に退社したことが明らかにされ、恒常的にサービス残業をさせられていたことが証明されました。
会社は勤務報告のとおりの残業時間が正しく、Aさんは業務と無関係に社内にいたと主張しましたが認められず、Aさんの上司は状況を理解していながら、何らかの策を講ずることをしなかったとして、会社側の責任を認めたものです。Aさんは入社まで恵まれた環境に育ち、心身ともに健康で本人、家族ともに精神疾患の既往歴がないなどを考慮して、過酷な業務が原因で精神疾患となったと認めました。
一審の東京地裁では会社の責任が100%認められ賠償額は1億2600万円の判決です。
その後の高裁では、賠償額が7割に減額されましたが、ほぼ地裁判決を支持したため、会社が上告しました。減額の理由は、両親が状況を知りながら具体的な策を講じなかったなどとされ、722条2項の過失相殺が適用されたものです。
最高裁判決では、民法722条の過失相殺により賠償額を減額したことについて、Aさんはごく普通の青年であり、過重労働以外に精神病になる理由が考えられない、また、両親が会社に対して何かできる立場ではないので、両親に過失があるとは言えない、上司が状況を把握しながら何も措置をしていない点等をもっとよく考慮すべきとして、高裁に差し戻しました。
要するに、Aさんや両親に相殺されるべき過失はないという、会社側に対してより厳しい判決です。
その後、差し戻しとなった東京高裁で和解が成立して、会社が1億6800万円を支払、謝罪するということで決着しました。
この事件は高額な賠償額が話題となりましたが、社員が精神を病むほどの過重な労働を強いた会社に対して、全面的な責任を認めたということでも画期的な判例となりました。
うつ病による労災の認定は年々増え続けています。会社には社員が安全で健康に働けるように職場環境を整える義務がありますので、健康チェックをはじめとして、特定の社員に業務が過重になっていないかなど、日頃から配慮する必要があります。
この事件では、上司の靴の中に入れたビールを飲むことをAさんに強要するなどの、いわばパワーハラスメント(職場の権力を背景にしたいじめや嫌がらせ)とも言えるようなことも確認されています。新入社員が何も言えず従わざるを得ないような職場の慣行も、Aさんの精神を傷つけたと思われます。
会社側は当然Aさんの過重な労働について認識していたと思われますが、特に何らかの措置を講じませんでした。判決でもその点が厳しく指摘されています。
社員の心の病は、業績の低下を招き、人材、人件費の損失であり労使トラブルのもとともなります。
原因として考えられるのは主として
1.過重労働
2.セクシャルハラスメント、パワーハラスメント
ですので、そのようなことのないように社内規程の整備、社員に対する啓発活動、社員向けのカウンセリングの充実などにより防止するよう、労務管理を徹底してください。
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判例に見る職場のトラブル(2)育児による短縮勤務と賞与
判例のご紹介 育児のための勤務時間短縮で賞与がなし?
(代々木ゼミナール(東朋学園)事件 最高裁判決平成15.12.4)
ある学校法人の賞与規定に「出勤率が90%以上の者に支給する」と定めてありました。
女性職員のAさんが、平成6年の7月に出産して8週間の産後休業取得後、育児のために1日につき1時間15分の勤務短縮措置を受けました。事業主側は平成6年の年末賞与について、産前産後休業、並びに生理休暇は欠勤扱いとするとしたため、Aさんは90%の出勤率を充たすことができず、賞与は支給されませんでした。
平成7年度の夏季賞与については、育児のために勤務時間短縮措置を受けた者については、短縮分を欠勤日数に加算するという規定が追加され、またしてもAさんは賞与を支給されませんでした。
Aさんは賞与支払を求めて提訴しました。
地裁、高裁ではAさんの請求が認められましたが、最高裁では一審、二審同様、90%条項において、産後休業や育児のための勤務時間短縮を欠勤扱いすることは、法律により保障された権利等の行使を抑制するもので、公序に反し無効と認めました。しかし、賞与額の算定については休業や短縮分を減額することは直ちに公序違反とは言えず、その点の判断を尽くすようにと、破棄・差し戻しとしました。
使用者側は、賞与について通常の賃金とは性格を異にし、任意恩恵的なもので、支給の決定、基準等については使用者の裁量に委ねられていると主張しましたが、判決では「労働者の年間総収入に占める割合が大きく、功労報償的、利益分配的な面があるとしても、賃金に準ずるものと見て検討を要するものというべき」としました。
判決の中で、この法人の就業規則にある他の特別休暇、結婚や父母等の死亡や法要、男性職員の配偶者が出産した時の休暇(5日間)については、賞与支払算定の欠勤扱いとはしていないことに触れ、もっぱら女性がとることになる出産や育児のための休暇のみ欠勤扱いするのは、女性差別にあたるとしています。
通常「ノーワーク・ノーペイ」の原則があり、働かない分について賃金を支給しないことは差し支えありません。しかし、判決ではその点についても触れて、他の休暇との取扱いに著しい差異があり、ノーワーク・ノーペイを超え制裁的なカットは問題があるとしました。
「ノーワーク・ノーペイ」ということについては、既に通常の賃金が無給であるというところでその処理は済んでいるという考え方もできるので、一審、二審では、賞与全額支払いを認めたものと思われます。
でも、100%働いた人と差をつけるのは違反とは言えないので、その点を検討し直すようにというのが最高裁の判断です。高裁に差し戻された後、全額不支給は違法だが、一定の減額はよいということで2割の減額を認めて決着しました。
この事案で問題となるのは、産後休業や育児のための勤務短縮など、法律で権利が規定されていて、労働者側はその権利を行使しただけなのに、労働者側に責任のある「欠勤」と同列にしたことです。それは明確に無効とされました。
また、不利益をこうむるのがもっぱら女性になってしまうのは合理的でないということについても言及されているので、「間接差別」の問題ともからめて、使用者は注意するべき問題だと思います。賞与支払基準に関してそのつど回覧を回すなどというやり方をしていたようですが、それも感心できません。
会社も社員も納得できるような規程を作成して、周知徹底するべきだったと思います。
賞与についてはせめて働いた分については支給するべきだというのが最高裁判例の考え方です。
団塊世代の大量退職、止まらない少子化の流れ等により今後深刻な人材不足が予想されます。優秀な人材を確保するためにも法令を遵守した規程を整備し、男女の別なく子育てをしながら生き生きと働ける場を提供することが、企業の社会的使命であり、事業の発展にもつながると思います。
また、育児休業中の無給扱いについても、「ノーワーク・ノーペイ」という原則があり違法ではありませんが、子供は社会全体の宝です。1割でも2割でも給料を支払うという選択があってもいいと思います。
「うちの会社って親切なんだよ」と社員が家族や友人にアナウンスしてくれるでしょうし、「こんな会社なら長く働き続けたい」と思ってくれるのではないでしょうか。
育児休業中のノーワーク・ノーペイについては私のブログも合わせてごらんください。http://srkibou.blog75.fc2.com/blog-entry-239.html
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判例に見る職場のトラブル(3)解雇権の濫用
判例のご紹介 解雇権の濫用
(高知放送事件 最高裁判決 昭和52.1.31)
解雇の要件のひとつとして就業規則上にどのような時に解雇になるかという規定が必要です。この判例は、たとえ、規定があっても「社会通念上相当なものとして是認できなければ解雇権の濫用になる」とした点で、労働契約法第16条の条文(注1)につながるものです。注1 労働契約法第16条 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」 以上の条文は平成20年3月1日より施行の労働契約法第16条となりましたが、もとは労働基準法第18条の2でした。現在は労働基準法から削除され労働契約法に移行されました。
原告A氏はY放送会社のアナウンサーで、午前6時から始まる10分間のニュースの担当でしたが、2週間の間に2度も寝過ごして放送に穴をあけてしまいました。通常はアナウンサーとコンビを組むFAX担当記者が先に起きてアナウンサーを起こすことになっていたのですが、2度とも記者もいっしょに寝過ごしてしまったのです。
A氏は一度目は直ちに謝罪しましたが、二度目はA氏の事実誤認なども重なり、結果的に事実と異なる事後報告書を提出します。そこでY会社はA氏の行為が就業規則上の懲戒解雇事由に該当するが、将来を考慮して、普通解雇としました。
A氏は従業員としての地位確認(解雇は無効との主張)を求めて提訴し、一審、二審ともに勝訴しました。会社が上告しましたが、最高裁でも解雇は無効とされたものです。
判決では、A氏が責任感に欠け2度目にはすぐに非を認めなかった点などでA氏にも非があるとしました。しかし、A氏には悪意や故意があったわけではなく、FAX担当記者が起こさなかったということもあり、A氏だけを責めるのは(FAX担当記者は譴責処分のみ)酷である。
また、放送の空白時間はさほど長時間ではなく、二度目については、短期間内に2度の失態をして気後れしていたことを考えれば、A氏を強く責めることはできないとしました。会社側も万全を期すための措置をしているとはいえなかったとして、就業規則上の解雇事由にあたるとしても
「当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである」としました。
判決では、寝過ごしということが万が一起きたらどうするかというところで、会社も「危機管理」が甘かったということを指摘していますし、やはり、解雇まではやり過ぎだとの判断を示しました。
この判決に先立ち「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」(日本食塩製造事件、最高裁判決昭和50.4.25)という判例がありますが、この判例では、さらに就業規則上に普通解雇事由の存在が肯定されてもなお、社会的に相当と是認されなければ無効となるとした点が注目されるわけです。
解雇権は使用者側が持っているものですが、むやみに使われると労働者の生活が脅かされるわけですから、使用者に対して解雇するに足りる十分な理由を求めるというのが、判例での流れです。
個別労働紛争でも解雇についての事案が一番多いようですが、裁判までいけばよほどのしっかりした理由がないと使用者側には不利です。
就業規則を整備する、採用時に労働者がその会社にとって適任かよく見極める、労働環境を整備してミスが起きないようにするなどの労務管理に力を入れて自衛しましょう。
労働者としては、納得できない場合は泣き寝入りしないで最寄の労働基準監督署、社労士会の労働相談所などに相談しましょう。
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判例にみる職場のトラブル(4)セクハラ
判例のご紹介 セクシャルハラスメント
(福岡セクハラ事件 福岡地裁判決平成4年4月16日)
セクハラのリーディングケースとなった判例をご紹介します。
昭和60年12月にY社に雑誌編集者としてアルバイトで入社し、後に正社員となったAは能力のある女性で次第に頭角を現します。おもしろくない編集長Bは、「Aは結構遊んでいる」とか「○○と怪しい仲だ」などと、Aの異性関係が乱脈であるかのような噂を流します。
昭和62年12月、BがAに転職を勧めたことから両者の関係が悪化、業務に支障が生じるようになり、Y社のC専務がY社代表者と協議して、どちらかに退職してもらうことになります。結局あくまでも謝罪を要求するAが退職の意思を表明したため、Aは退職、Bは3日間の自宅謹慎となりました。その後、AがBの言動はセクシャルハラスメントだとして、B、C、Y社に損害賠償を求めた裁判です。
判決では、Bの言動は「働く女性のAの評価を低下させるもので、その名誉感情、その他の人格権を害するものであり、職場環境を悪化させるもの」としてBの不法行為責任を認めました。また、Y社代表者とC専務についても「Bの上司として職場環境を良好に調整すべき義務がありながらそれを怠り、主としてAの譲歩、犠牲の上に調整しようとした」として不法行為責任を認めました。
性的中傷を含む言動が被害者の労働環境を悪化させ、退職を余儀なくさせるという事態に対して、不合理であり、直接に被害を及ぼした者と同時に会社側にも責任があるとしたものです。
職場でのセクシャルハラスメントには、「対価型」と「環境型」があります。
前者は職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により、解雇、降格、等、当該労働者が不利益を受けることを言います。後者は、職場において行われる性的言動により、職場環境が害されることを言います。
ご紹介した判例は、判決文でセクシャルハラスメントという文言は使っていませんが、いわれのない性的中傷を受けた労働者の就業環境が悪化し、退職にまで追い込まれたことについて、不法行為責任を認め、さらに使用者の責任も肯定している点で、セクハラの先例的判例です。
この判決の当時はセクハラを直接規制する法律がなく、不法行為により救済されましたが、平成19年4月からの改正男女雇用機会均等法では、男女双方に対するセクハラ防止の「措置」が使用者に義務づけられました。
厚生労働省の指針では、セクハラに対する周知や啓発、相談窓口の設置、セクハラを行った者に対しての厳正な対応、就業規則や服務規律で明確化することなどの措置をするように求めています。
セクハラが職場で行われますと、労働者の働くモチベーションが下がり、優秀な人材を失うことにもなりかねません。
セクハラは絶対に許されないということを周知・徹底するためにも、就業規則、社内規程などを見直して整備してください。
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判例に見る職場のトラブル(5)私傷病による配置転換
判例のご紹介 私傷病による配置転換
(片山組事件 最高裁判決 平成10.4.9)
私傷病等で今までの業務は難しいが、他の業務ならできるという労働者を会社としてどう処遇するかということについて言及した判例です。
原告X氏は20年近く被告会社Yで建設工事現場の現場監督業務に従事していました。平成2年夏、X氏はバセドウ病との診断を受けますが、平成3年2月まで現場監督業務を続け、その後次の現場監督業務が生じるまでの一時的業務として、図面作成などの事務作業をしていました。
X氏は、平成3年8月から現場監督業務をするよう業務命令を受けますが、病気のため現場業務はできないこと、残業は1日1時間に限り可能、日曜日、祝日の勤務は不可能であることなどを申し出ます。会社の要請により診断書も提出しました。
会社は平成3年9月30日付けの指示書で10月1日から当分の間自宅療養するように命令します。X氏は主治医の診断書を添え事務作業はできると主張しましたが、会社は診断書に現場作業ができるとの記述がないとして、自宅療養命令を持続します。
その後、平成4年2月5日に現場監督業務に復帰するまでの期間中、会社はX氏を欠勤扱いとして無給とし、賞与も減額しました。X氏が欠勤扱い中の賃金と賞与の減額分を請求したのが、本事案です。
判決では、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置、異動の実情に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である」としてX氏の言い分を認めました。
今までの仕事ができなくても現実に他の仕事ができる可能性があり、本人も希望するのならそれをやってもらいなさいという判断です。
「職種や業務内容を特定せず労働契約締結」となっていますが、職種が特定されていた場合はどうでしょうか。
それまでの通常の業務ができなくなったトラック運転手について、「他の配置可能な業務が存在し、会社の経営上もその業務を担当させることにそれほど問題がないとき」は労務の提供を認めるとした判例があります。(カントラ事件 大阪高裁判決平成10.6.19)
以上のように今までの仕事ができなくなっても、他にできる仕事があり本人も希望するのなら、会社は可能な限りその仕事をさせなさいというのが判例の考え方です。
通常、私傷病で休業を余儀なくされた場合、就業規則で一定の休職期間があり、それを過ぎると期間満了により解雇、もしくは、欠勤扱いとなり業務の遂行が不完全ということで解雇、または、本人が申し出て退職になるというのが普通だと思います。
労働者側としては、退職したくない場合はどのような業務ができるかということについて会社に説明し、可能なら業務を転換してもらうという選択があると思います。
これを経営者側、特に中小企業の経営者の視点で見てみましょう。だいたいいっぱいいっぱいの人数で業務をこなしているでしょうから、配置転換といっても難しいかもしれません。健康上問題のある社員を抱え込むほど余裕はないというのが本音でしょう。
雇用契約を結ぶ時に運転手等特殊な仕事はきちんと限定して明記することなどが必要です。労働基準法では休職期間について規定はありませんから、会社の実情にあった期間を就業規則で定めることも大切です。
また、そのような事態になった時には労働者と誠意を持って話し合うことが大事だと思います。会社の実情をよく理解してもらうということです。訴訟までいってしまうと、先の判例のように経営者側には不利ですから、そうならないように誠実に労働者と話し合う姿勢が大事だと思います。訴訟になった例は会社の一方的なやり方を労働者が納得せず、怒りを感じているような場合が多いです。
病気というのはなりたくてなるものではありません。また、誰でもなる可能性があります。一度大病すると様々なことを考えますから、多くの人は人間的に大きく成長します。
「病歴は学歴に勝る」とある著名な学者も語っています。
回復の見込みがある、又は、慢性化しても業務の内容によりできるものがあり、本人も希望している場合は、できることなら会社の人材として生かす方法を考えていただきたいと思います。じっくりと話し合えば会社も社員も納得する方策がきっと見つかると思います。
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判例にみる職場のトラブル(6)転勤の拒否
判例のご紹介 転勤の拒否
(東亜ペイント事件 最高裁判決昭和61.7.14)
X氏は昭和40年の大学卒業と同時に全国15箇所に事務所、営業所のあるY会社に入社して希望した大阪事務所に勤務しました。その後昭和44年に子会社に出向、46年には神戸営業所に転勤を命じられ勤務を続けてきました。
昭和48年には広島営業所への転勤を内示されましたが、高齢の母(71歳)がいて、保母をしている妻も仕事を辞めるのは難しい、子供が幼少(2歳)など、家庭の事情により転居を伴う転勤には応じられないとして拒否しました。
会社は広島営業所には名古屋営業所の主任を充て、その後任として今度は名古屋営業所への転勤をX氏に内示しました。またまたX氏が拒否したところ会社は本人の同意なく転勤を発令しました。X氏が応じなかったため、会社は就業規則所定の懲戒事由に当たるとしてX氏を懲戒解雇としました。
X氏は配転命令が人事権の濫用であり、労働協約上の協議がなされていない、頻繁な配転が組合活動を理由とした差別だとして従業員の地位確認並びに賃金支払を求めて提訴しました。
一審、二審では、人事権濫用として請求を認めたのですが、最高裁は使用者側の裁量を認め高裁に差し戻すこととしました。「使用者の権利濫用は許されない」としましたが、それは
「転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは」権利濫用ではないと判示しています。
その後、差し戻し審では労働協約違反と不当労働行為の成否について審理されましたが、平成4年にY会社が懲戒解雇を撤回して賃金を保障し、配転について遺憾の意を表すとともに解決金を支払うことで和解しました。
この判例により、権利濫用の判断基準として①業務上の必要性があるか、②不当な動機・目的はないか③労働者の不利益が大きいかというようなことが挙げられるようになりました。
その後平成3年に育児介護休業法ができて、子の養育、家族の介護などが困難になる労働者について就業場所を配慮することが義務付けられました(平成13年改正 第26条)から、使用者の裁量権については前述の時代よりも一定の制限が加えられたと考えても良いのではないかと思います。
その他の判例では、実際に単身赴任についてそれを強いることが不利益を与えると認定した事例(朝日火災海上保険事件 最高裁判決平成5年2月12日)などもあります。
判例でも使用者の人事権として裁量を認めているわけですが、その根拠については以下の学説があります。
①包括的合意説 労働契約は配転を含めて包括的に使用者に権利を委ねるものであるので、個別の決定は権利の濫用にならなければ使用者が一方的に意思表示できる。
②労働契約説 配転命令は労働契約において合意された範囲内のみ効力を有する。範囲を超える場合は労働者の明示、ないし黙示の合意が必要である。
③特約説 特約がある場合のみ使用者が配転を命じることができる
通常①と②が有力です。①、②ともに就業規則等に規定があればあまり差がないわけですが、就業規則など社内的に規定がない場合、①説なら労働契約をした時点で包括的に使用者に権利が発生すると考えますから問題ないのですが、②説をとると、社内的な規定がなく労働者が合意しない場合、使用者側が権利の濫用ではないということを示さなければならないのです。
ですから、使用者側にすれば就業規則というのはとても重要な意味を持つわけです。配置転換等についての規定を就業規則の中できちんと明記しましょう。
「東亜ペイント事件」では一審、二審では転勤を命じられた社員Xについて、どうしてもXでなくてはいけないという理由もなく、Xが相当な犠牲を強いられることを認め、かつ前の転勤から短期間しかたっていないという事情を考慮して権利の濫用と判断されました。
労働組合活動に関連しての配転や(不当労働行為)、差別的取り扱いに当たるような配転は(均等法違反)それぞれの法律に照らして無効になると考えられています。
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判例に見る職場のトラブル(7) 秘密保持義務
判例のご紹介 秘密保持義務
(古河鉱業足尾製作所事件 東京高裁昭和55.2.18判決)
原告A氏、B氏は削岩機等を製造するY会社の工員で、共産党員です。
Y会社は経営再建のため3ヵ年計画を立案する過程で、3年後の業務状態を具体的数字で表した文書を作成し、極秘扱いとしていました。労組役員であったA氏は誤って余分に複写され保管されていたこの文書を借受け、B氏とともに写しを作成して、計画反対のための労組の態勢作りに利用するべく、Y会社の従業員ではない地区の委員会の幹部に漏洩しました。
Y会社はこの行為が就業規則の「業務上重要な秘密を社外に洩らし、又は洩らそうとしたとき」等に該当するとして、A氏、B氏を懲戒解雇としました。A氏、B氏が、自分達が活発な組合活動家であることを理由に事実の捏造が行われたもので、解雇は無効であると提訴しました。
一審では、A氏、B氏に重大な義務違反があったとして解雇を有効としました。A氏、B氏が控訴したのが本件ですが、控訴棄却となりました。
判決では、「労働者は労働契約にもとづく付随的義務として、信義則上、使用者の利益をことさら害するような行為を避けるべき責務を負う」として秘密をもらさないこともその義務に含まれるとしました。また、「管理職でないからといってこの義務を免れることはなく、自己の担当する職場外の事項であっても、これを秘密と知りながら洩らすことは許されない」として、秘密保持義務を全ての労働者に共通する義務としています。
現在、労働者が使用者の業務上の秘密を守るべきという直接の法律はありませんが、本件のように労働契約上の信義則で当然の義務とするのが、判例、学説の考え方です。
不正競争防止法では「営業秘密」という狭い範囲で定義していますが、通常秘密保持義務を言う時はもっと広く、使用者の利益を害するような秘密全般と解されています。
会社としては、社内的に重要な秘密を洩らした場合には懲戒解雇もあり得るということを、就業規則で明記し社員に周知することが重要です。
※なお、平成18年4月1日から施行されている「公益通報者保護法」では、いわゆる公益を守るための内部告発者についての解雇は無効です。いくら会社の秘密と言ってもそれが違法なことであるなら、「秘密保持」には当たりません。
法律学では「クリーンハンドの原則」というものがあります。「自ら法を侵している者は法の保護には値しない」ということです。会社は常に法令遵守する姿勢を貫いてこそ社員に対する懲戒ができるのです。
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判例に見る職場のトラブル(8)職場内不倫による解雇
判例のご紹介
職場内不倫による服務規律違反による解雇(繁機工設備事件旭川地裁判決 平成元年12.27)
服務規律違反については、懲戒解雇もあり得ると規定しているのが普通ですが、判例では、解雇についてはかなりの理由を要求しています。
就業規則に「職場の風紀・秩序を乱した」社員は解雇できるとの規定がある会社で、不倫恋愛が問題となり解雇された社員が、解雇を無効として、雇用契約上の地位にあることを仮に定める地位保全と賃金の仮払いを求める仮処分についての判例があります。
A子さんは10年間の結婚生活の後夫と協議離婚して一子を引き取ります。その後募集広告に応募してY会社に就職します。Y社は水道設備工事などを業とする正社員と季節雇用者を合わせても10名ほどの規模の会社です。
勤め始めて半年ほどして、A子さんは同社の妻子ある男性社員B男さんと交際するようになり、男女の深い仲へと発展します。
2人の関係は、社内で親しそうに話したりお弁当のおかずを交換したりしているところや、A子さんのアパート前にB男さんの車が停まっているところを目撃されて、やがて同僚の知るところとなります。
Y社の社長は従業員や取引先関係者からそれを伝え聞き、妻子のために交際をやめるようA子さんに忠告しますが、2人の交際はその後も続きます。交際してから1年後ぐらいに、Y社側はB男さんを通してA子さんに2ヶ月くらいをめどに会社をやめるように申し入れます。これを伝え聞いたA子さんは社長に会い説明を求めます。
社長は、2人の交際について社内外で非難があり、社内の風紀が乱され社員の意欲も低下し社長の体面も汚されたと説明します。A子さんはプライベートな問題だし、当事者間で話し合っている最中だとして納得しませんでした。
その後、Y社社長はA子さんが会社全体の風紀・秩序を乱し、企業の運営に支障をきたしたとして、解雇通知書をA子さんに手渡します。A子さんが解雇を無効として仮処分を申請したのが本件です。
結論としては会社側の負けです。
A子さんの行為がB男さんの「妻に対する不法行為であり、社会的に非難される余地がある」と認めましたが、Y社の就業規則にある「職場の風紀・秩序を乱した」ということに関して「疎明はない」(注1)として、解雇を無効として、通勤手当以外の基本給と住宅手当を支払うように命じました。
[注1.] 疎明とは、訴訟手続き上、裁判官が当事者の主張事実につき、一応確からしいという程度の心証を抱いた状態、又は裁判官にその程度の心証を得させるために当事者がする行為を言います。
この裁判では、A子さんとB男さんの交際が社内の風紀・秩序を乱し企業運営に具体的な影響を与えたという確たる心証がないので、就業規則上の解雇理由にはあたらないと、裁判官が判断したわけです。
従業員の私生活上の行為は本来は企業秩序とは無関係ですし、原則として懲戒の対象とはなりません。もちろん、刑事事件を起こすなど会社に不名誉な事態になったり、賭け事や借金など私生活の乱れにより仕事に支障をきたしたなどという場合は、会社に損害を与えているわけですから、懲戒の対象となる可能性が高くなります。
男女間のことについては、「不倫関係」であっても労働契約外の問題として、反社会的、反倫理的な行為ではあっても会社は関与できないというのが原則とされています。
社内の男女間のトラブルで解雇が有効となった判例もあります。
妻子あるバス運転手が未成年の女子車掌を妊娠させた例では「会社の従業員間の秩序を破ること著しきもの」として会社の「社会的地位、名誉、信用等を傷つけ」、会社に損害を与えたとして解雇はやむを得ないとしました。(長野電鉄事件長野地裁判決 昭和45.3.24)
その他には近隣の主婦と不倫関係に陥った機長が問題をこじらせ、機長としての適格性に欠けるとして解雇が有効にされた例、(日航機長解雇事件 東京地裁判決 昭和61.2.26)
妻子ある高校教師が教え子との交際の後、卒業後男女の仲になって懲戒免職処分が有効とされた例(池田高校事件 大阪地裁判決 平成2.8.10)などがあります。
やはり、ケースバイケースで個別の事情を加味して判断されるということだと思われます。A子さんとB男さんの場合は2人ともそれなりの大人であり、会社にどのような損害があったのか具体的なものがないというのが決め手になったということだと思います。
いずれにしても、解雇までいくのはやはり相当な理由がないとなかなか認められないということだけは確かだと思います。
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判例に見る職場のトラブル(9)仮眠時間は労働時間か?
判例のご紹介 仮眠時間は労働時間か?
(大星ビル管理事件東京地裁判決 平成5.6.17)
一般に労働時間とは使用者の「指揮命令下」にある時間と考えられてきました。しかし、作業の準備、後始末、社外の研修など本来の業務以外の活動について、労働時間性が問題とされるようになり、「指揮命令下」に加え、「業務性」についても「指揮監督」を補充する重要な基準となるという学説も登場しました。
本件は、単に指揮命令下にあるかのみでなく、仮眠時間中の拘束の度合いについて言及した判例です。
原告A氏らは、ビル管理会社Yの従業員です。毎月数回24時間連続業務に従事します。その間休憩時間が2時間、仮眠時間が連続して8時間与えられます。
仮眠時間中はビルの仮眠室に待機して、警報がなる等の場合は直ちに所定の作業を行うことになっていました。
Y社は仮眠時間を労働時間に含めず、24時間勤務の時は泊まり勤務手当てを支給するだけで、時間外手当、深夜就業手当てを原則として支給していませんでした。仮眠時間中に現実に業務を行った時のみ時間外手当と時間帯に応じて深夜就業手当てを支給していました。
A氏らは仮眠時間を全て労働時間とするべきであるとして、その間の賃金の支払を求めて提訴しました。
結果はA氏らの請求が認められました。
判旨では、「労働時間とは労働者が使用者の拘束下にある時間のうち休憩時間を除いた時間」であるとして、休憩時間とは、「現実に労働者が自由に利用できる時間」としました。
すなわち、「現実に労務を提供していなくても使用者の指揮管理下にある時間、たとえこれが就業規則等で休憩時間、または仮眠時間とされているものであっても、なお労働時間に当たり、賃金支給の対象となる」としました。
労働時間かどうかの判断について、「労働からの解放がどの程度保証されているか、場所的、時間的にどの程度開放されているか、といった点からも実質的に考察すべき」として、仮眠時間中の職務上の義務における程度の問題にも言及しています。「職務としての拘束性の程度」を判断基準としてあげているわけです。
この判決の特徴は場所的、時間的制約の程度で仮眠時間中の労働時間性を判断している点です。本件では、警報や電話に対する対応を職務として義務付けられているため、労働からの解放がないとして、労働時間であると認めましたが、逆に場所的、時間的制約が相当程度低いものであるなら、労働時間性が否定される可能性もあるということだと思います。
使用者の「指揮命令」に加えて「職務としての拘束性の程度」についても判断の基準を示した先例的な判例です。
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判例に見る職場のトラブル(10)管理職に対する残業代
判例のご紹介管理職に対する残業代の支払
(大阪地裁判決昭和61.7.30レストランビュッフェ事件)
ファミリーレストランの店長X氏は、コック等の従業員6~7名を統率して、ウェイターの採用にも一部関与していました。
材料の仕入れ、売上金の管理等も任せられていましたが、営業時間の午前11時から午後10時までは、完全に拘束されていて、出退勤の自由が認められていませんでした。仕事の内容もコック、ウェイター、レジ係り、掃除など店の運営のための全ての仕事をこなしていました。
会社側はX氏は管理監督者であり、一般労働者ではないとして、残業代を支払わず、月2~3万円の店長手当てを支払っていました。X氏はこれを不服として割増賃金支払を求めて提訴しました。
判決では、X氏に出退勤の自由がなく、ウェイターの労働条件も最終的には会社が決めているとして、X氏は管理監督者には当たらないとしました。
労働基準法では、労働時間の規定の適用除外者として、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」を挙げています(第41条第2項)
これらの人は経営者と一体的な人として、厳格な労働時間管理になじまないと判断されているわけです。
旧労働省の通達によると、「一般的には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるものの意であり、名称にとらわれず実態に即して判断すべきものである」としています。
また、同通達で、「実態に基く判断」とは、「資格、及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要がある」としています。
その他、待遇面にも言及しています。「賃金の待遇面についても無視し得ないもの」として、「その地位にふさわしい待遇がなされているか否か」「ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付き者以外の一般労働者と比し、優遇措置が講じられているか否か」を判断基準として挙げています。
一般労働者とは違うそれなりの待遇と権限を与えられているからこそ、労働時間の枠をはずしてもいいという考え方だと思われます。
社員を管理監督者として残業代の支払対象から外す場合は、十分な権限とそれに見合った待遇、労働時間についての裁量などが与えられているかが、問題となります。判断材料として以下の事項が挙げられます。
①労働時間に対する裁量(出退勤の時間が厳格に管理されているか否か)
②職務上の権限と責任
③経営者と一体的な立場で労務管理上の決定権、人事考課権などがあるか。
④給料、賞与などで地位にふさわしい高い処遇を得ているか。
以上の要件を充たしてはじめて労働基準法にいう管理監督者となり、「残業代を支払わなくてよい人」となるのです。
最近、「店長」など名前ばかりの管理職にして、残業代を支払わず、裁判になる例が増えています。未払い賃金は2年間分遡って支払うことになりますし、遅延損害金、付加金の支払など、経営者にとって裁判に負けると大変な出費となります。
法令遵守しないことのリスクを経営者の皆様は是非意識していただきたいと思います。
残業手当については、労使ともによく納得することが大切だと思います。